2022年12月15日
大岩彩乃医師 慢性疼痛治療について
今回は、お茶の水セルクリニックに勤務されていた大岩彩乃医師より、「慢性疼痛」についてご紹介いただきました。
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慢性疼痛について
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慢性疼痛・ペインクリニック担当の大岩です。(※メルマガ配信時点)
今回のメルマガでは、慢性疼痛についてお話ししたいと思います。
慢性疼痛とは、「一般的な治癒期間を超えて続く痛み(おおよそ3ヶ月以上)」と定義されます。
原因は様々ですが、原因によらず難治であるのが一般的です。
患者さんが訴える痛みのケースとして下記に分類されます。
・侵害受容性疼痛…器質的な疾患が直接の原因となる痛み
・神経障害疼痛…神経の障害により生じる痛み
・心因性疼痛…社会的要素や心理的要素に関連した痛み
実際の患者さんではこれらの要因が混ざり合って難治化しており、判断に困るケースが多いです。
よく診る疾患を挙げると、慢性腰痛、慢性の運動器疼痛、術後遷延痛(脊椎術後、乳房術後、開胸術後など)、外傷後遷延痛、帯状疱疹後神経痛、化学療法や糖尿病などの治療関連の神経障害性疼痛、複合性局所疼痛症候群などです。
また最近の科学的知見から、器質的な問題がなくとも慢性疼痛が生じることが証明され、WHOのICD−11にカテゴリー化されました。
ペインクリニックでは、この痛みの成因に合わせて、薬物治療・神経ブロック・運動療法・心理療法などを組み合わせて行います。
患者さん自身の治療への希望もお一人毎に異なり、支える家族や地域の医療資源が異なるため、信頼関係を育みつつ最適な「痛みとの付き合い方」を提案し、支え、活動性を上げて行くことを治療ゴールとしています。
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慢性疼痛を取り巻く状況
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昨今の話題としては、下記の3つが挙げられると思います。
①新規の神経ブロック治療技術開発
こちらは、わたくしの専門領域になりますが、今までの神経を「麻酔する」治療ではなく、神経自体の興奮性を機械などにより調整して異常発火を減らす高周波パルス療法や脊髄神経刺激療法が挙げられます。
②オピオイド鎮痛薬の問題
この問題は術後遷延痛や、がん治癒後にも残存する痛みの患者さんで、しばしば経験します。
何年にもわたり、医療用の麻薬を使い続け、調整がご自身でも医療従事者でもできなくなって来院されるケースです。
患者さんご自身でも、異常な状態だと気づいていても相談窓口が少ないため辿り着かないのが実情です。
③再生医療や神経イメージング技術の参入
新しい医療技術によって画像診断の領域では今まで明らかにできなかった中枢神経の機能異常が痛みに繋がっていることが判明してきています。
再生医療の領域が中枢神経にも末梢神経にも広がっていることに大きな魅力を感じています。
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慢性疼痛治療患者さんへの想い
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最後にですが、痛みによる苦痛に寄り添うことは、ペインクリニックの医師ならずとも万人にできるケアであり、患者さんにとっての大きな励みになります。
科学的根拠を集積し、発信するのが職責ではありますが、常に寄り添う温かい姿勢を忘れずに提供してゆきたいと思います。
今後、近い将来に原因がわからず治らなかった慢性疼痛の患者さんたちに、オーダーメイドの治療を届け、少しでも元気な日常に復帰して頂きたいと考えています。
【大岩彩乃医師プロフィール】
日本麻酔科学会専門医/日本ペインクリニック学会専門医/日本再生医療学会会員
経歴
・昭和大学医学部 卒業
・東京慈恵医科大学大学院 修了
・都立大久保病院 麻酔科
・東邦大学医学部麻酔科学講座 助教
・NTT東日本関東病院 ペインクリニック科
・東邦大学医療センター大森病院 国際医療支援部副部長
・あびこ痛みのクリニック 院長 (2022年10月〜)